スチレン スチレン(styrene)とは… エチルベンゼンの脱水素などにより製造される分子量 104 の芳香のある無色の粘稠な液体です。比重 0.91( 20 ℃)、融点 −30.6 ℃、沸点 145.1 ℃、引火点 32 ℃、アルコール及びエーテルに可溶で水に不溶です。ビニル基(エチレンと同じ)を持つため極めて反応性が高く、加熱、光、過酸化物等により容易に重合します。
スチレンを重合することにより、ポリスチレンが製造されますが、その他、不飽和ポリエステル樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、合成ゴム、イオン交換樹脂、合成樹脂塗料等の製造においても、原料モノマーとして使用されます。そのため、これらの製品に少量ですが残存します。化学工業的には、反応収率 100 %ということはなく、例えば、 99.9 %の場合、0.1 %は未反応のまま残ります。また、重合(つなぎ合わせ)が2つ、3つのものもでき、ダイマー、トリマーといいます。スチレン樹脂は大量の重合物と重合度の低いもの、未反応物を含む混合物なのです。
子供や若者から、ビジネスマンやOLにまで人気のカップ麺の容器の約90%は、発泡スチロール製です。 発泡スチロールの原料であるスチレンは内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)として問題になった化合物の一つです。
ポリスチレンからは、熱や油で簡単にモノマーが溶け出します。ダイマー、トリマーも、少量ですが同時に溶け出します。また、モノマーからは、光や過酸化物で簡単にダイマーやトリマーができます。このスチレンダイマーやスチレントリマーが一時期内分泌かく乱化学物質としてリストアップされました。
カップめんの容器やスチレン製のトレーなどに含まれるダイマー、トリマーの分析結果
さらに、油性食品でスチレンダイマートリマーの溶出量が多くなることがわかりました。 また、発泡ポリスチレンの場合、ポリスチレンビーズ発泡成形品(EPS:カップヌードルのような縦型タイプのカップめん容器)のほうが、押し出し法シート成形品ポリスチレン(PSP:どんぶりタイプのカップめん容器やトレー)よりも、スチレンダイマー・トリマーの残存量ともに少ないことも判明しました。
平成10年8 月、スナックめんの容器から内分泌かく乱物質であるスチレンダイマー等が溶出するとの研究結果等を理由に、市民団体から、即席めん類のJAS規格のうちスナックめんの容器の基準を見直すべきであるとして公聴会の請求があり、同年10 月に公聴会を開催した。
農林水産省では、公聴会で明らかにされた事実について検討するとともに、厚生省が同年11月に公表した「内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会中間報告書」についても併せて検討した結果、
@スナックめんの容器に使用されるポリスチレンについて人の健康に重大な影響
Aしかしながら内分泌かく乱化学物質の作用の有無、種類、程度等については未解明な点が多いため、今後とも知見の集積をすることが必要であるとの結論に達
さらに平成16年2月に消費者から独立行政法人農林水産消費技術センターに対して、「カップめんの中に市販のしそ油を入れ沸騰したお湯を注いで食べたところ、底の部分が変質したようだった」との情報提供がありました。 同センターで市販の発泡ポリスチレン製容器入り食品としそ油を購入して再現実験を行いました。
実験結果
このため、関係業界に対して
厚生労働省に照会した結果、容器に記載された通常の利用方法であれば食品衛生上特段の問題はないとの回答を得ています。
※以前から、ポリスチレン製の容器は、レモン等柑きつ類の皮に含まれるリモネンやしそ油などに多く含まれている不飽和脂肪酸によって変質することがあることが知られています。
<本研究室の16年度卒業研究生の実験結果>
H16年2月に農林水産省から報告された「カップめん容器のしそ油による損傷」のクレームに関連して,その原因究明と,容器からのスチレンおよびそのオリゴマーの溶出量の試験を試みました。
食品油(しそ油)によるカップめん容器の損傷の実験結果
<まとめ> 食用油の使い方によっては,容器の損傷は起こる可能性がありますので、今後スチレンオリゴマーの検出も含めて定量的な検討が望まれます。 カップめんの製造業者においても、食用油の使用については、「食べる直前に加える」など消費者にわかりやすく表示する必要があります。
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